情熱と覚悟を抱いて乗り込んだ虎の檻
2024年某日、YouTubeの人気ビジネス番組『令和の虎』に、一人の若き志願者が登場した。
名前は友田晴己(ともだ はるき)、当時23歳。クロモリ鋼を使用したハンドメイド自転車工房「SUNNY」を立ち上げたいと語る青年である。
彼は番組内で800万円の融資を希望し、夢の実現に向けて自らの情熱を語り始めた。しかし、その挑戦は一筋縄ではいかなかった。
自転車職人としての原点とビジョン
友田氏がクロモリ自転車に魅せられたのは、自転車業界の工房で修行を積んでいた頃のことだった。
大量生産・消費が主流となる現代の自転車市場にあって、手仕事で一台ずつ作り上げるクロモリフレームの美しさと、乗り手に寄り添うフィット感に強く惹かれたという。
彼のビジョンは明確だった。
「ただの製造業ではなく、ライフスタイルを提案するブランドとして自転車文化を広めたい」。
そのために、整備・販売・カスタムだけでなく、オーダーメイドでのフレーム制作まで対応できる店舗を開業し、自転車のある暮らしの素晴らしさを世の中に広めたいという思いを語った。
虎たちの反応──期待と不信の交錯
プレゼン序盤、投資家たちは友田氏の若さと熱量に一定の関心を示していた。
だが、事業計画の具体性を問うにつれて、空気が一変する。
特に問題視されたのが、資金使途と返済プランの不明確さ、そして発言の曖昧さや一貫性のなさだった。
ある虎は「話の筋が合わない」「その場しのぎで話していないか?」と疑念を口にし、
最終的には「嘘の上塗りすんなよ」と強い言葉を投げかけるまでに至った。
スタジオの空気は一気に緊張をはらみ、視聴者にとっても忘れがたい場面となった。
完全否定──NOTHINGの現実
最終的に、友田氏は一人の虎からも出資を得ることができず、NOTHINGという結果で番組を去った。
プレゼン中の不誠実さが致命的となり、志願としては大失敗に終わった形だ。
だが、それで彼の物語が終わったわけではない。むしろ、ここからが再スタートだった。
再起のSUNNY──自転車屋としての“再出発”
『令和の虎』出演から半年後、友田氏は大阪・富田林市に「SUNNY BICYCLE」を開業。
内装から備品に至るまで手作業で整えたという店舗は、整備・修理を中心とした業務からスタートした。
現在はSNSやYouTubeを活用し、ハンドメイド自転車の魅力や作業の裏側などを発信。
さらに、フレーム製作に必要な工具やスキルを日々磨きながら、少しずつ夢の実現へと歩みを進めている。
本音を語るYouTube配信とコミュニティづくり
彼は自身の過ちや未熟さも含めてYouTubeで発信しており、反省の言葉とともに、「それでも夢はあきらめない」と語る姿勢に、少しずつ共感の輪が広がっている。
単なる商売ではなく、共感を軸とした職人文化の再構築。
今、友田氏は「ものを作る」「修理する」という行為そのものの価値を、都市部にも地方にも届けようとしている。
自転車が変える生活、地域、そして人間関係
SUNNY BICYCLEはただの自転車店ではない。
人が集まり、対話が生まれ、メンテナンスを通して信頼関係が育まれる“地域の拠点”を目指している。
高齢者が安心して乗れる軽量自転車、通学を支える堅牢な車体、通勤で疲れない快適設計など、個人の人生に寄り添う一台を目指して、SUNNYはゆっくりと成長している。
終わりに──叩かれても、夢を諦めなかった男
『令和の虎』では失敗に終わった。
けれど、その敗北があったからこそ、今の彼がいる。
信頼を失った若者が、手で取り戻す信頼の物語。
それが、SUNNY BICYCLEという店の奥にある本当の価値かもしれない。
クロモリフレームに夢を託し、鋼のような意志で再びペダルを踏み始めた若き職人の姿は、私たちに「失敗の先にも道はある」ことを静かに伝えてくれる。
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