令和の虎|【後編】命と向き合い、社会を変える出前館創業者が描く、犬猫保護による日本再生の青写真

令和の虎 令和の虎まとめ

動物福祉と高齢化社会が交差する、次世代の課題とは

出前館創業者・花蜜幸伸氏と田中亜弓氏が挑むプロジェクトは、単なる動物保護にとどまらず、日本社会が抱える深層的な問題――特に「高齢化」と「孤立」というテーマに真正面から向き合っている。

日本は、世界でも類を見ないスピードで高齢化が進行している。独居高齢者の増加は、孤独死や介護の空白だけでなく、飼われていたペットの“孤独死”という新たな社会課題も引き起こしている。飼い主が倒れたまま発見されず、残された犬猫が数日~数週間にわたり飢えに苦しむという現実が、全国で起きているのである。

花蜜氏は、これを放置してはならないと強く訴える。人間と動物の命は本質的に分断できない。飼い主が孤立すれば、その影響はそのまま動物たちの命にも及ぶ。ゆえに、高齢者の孤立を防ぐためには、動物を軸にしたコミュニティ設計が必要なのだ。

そこで登場するのが、「ペットの安心信託」という考え方である。これは飼い主が元気なうちに、自分の死後にペットの面倒を誰に託すか、どういう医療や食事を保障するかを、法的に契約として残しておく仕組みだ。これにより、飼い主の不安を軽減し、安心してペットとの暮らしを送ることができる。

また、こうした制度を整えることは、ペットを“最後まで飼えない”という心理的ハードルを下げ、保護施設に持ち込まれる動物の数そのものを減らすことにもつながる。まさに制度と福祉の両輪が求められている時代だ。

保護活動が地域社会を再生する「循環型モデル」へ

田中氏はインタビューの中で、「保護活動は地域社会の再生とも結びついている」と語っていた。これは単なる理想論ではなく、実際に同氏らが運営する施設が、地域の雇用、観光、教育に良質な循環をもたらしている事実に基づく。

たとえば、彼らの保護施設では、地域の高齢者が動物たちと触れ合う「介護予防イベント」や、小中学生に命の大切さを伝える「いのちの授業」が定期的に行われている。これにより、世代間交流が自然と生まれ、地域に笑顔と会話が戻ってくる。

また、施設で働くスタッフやボランティアも地元の若者や主婦層が中心であり、雇用の受け皿にもなっている。過疎地域では選択肢が限られる中、このような福祉的施設がもたらす就業機会は極めて貴重だ。

観光との連携にも注目だ。動物とふれあえる施設は、癒やしや学びの場として都市部の人々を呼び寄せる力を持っている。週末には遠方から訪れる家族連れが増え、地域経済にも波及効果が出始めているという。

さらに、この保護施設は民間企業とも連携し、ペット用のフード、トイレ用品、ウェアなどを共同開発・販売することで、自立的な収益モデルも構築しつつある。利益の一部を保護活動に再投資するこの“循環型”の仕組みこそが、持続可能な社会モデルの中核になっていくのである。

「殺処分ゼロ」社会の実現に必要な発想の転換とは

日本ではかつて、保健所での動物の殺処分が社会問題として注目されることは少なかった。しかし、ここ10年で市民意識は変わりつつあり、「命を見捨てない社会をつくろう」という声が各地で上がるようになってきた。

とはいえ、制度面やインフラはまだ追いついていない。行政の対応は自治体によってまちまちであり、民間団体の努力に大きく依存しているのが現状だ。その結果、資金面や人手不足から、本来救えるはずの命が失われてしまうケースも少なくない。

花蜜氏はこの状況を打破するため、「命のインフラ整備」という発想を打ち出している。たとえば、全国に“セーフティネット型保護ステーション”を整備し、どこにいても動物が保護される体制を整えること。また、保護動物の情報を全国で共有・マッチングできるデジタルプラットフォームの構築も視野に入れている。

さらに、行政と民間が手を取り合うための「中間支援組織」も必要だという。今の日本は、行政か民間か、どちらかに責任を押しつける構造が根強い。それでは限界がある。花蜜氏は、官民連携による新たな共助の仕組みを模索しているのだ。

殺処分ゼロは、単に保護頭数を減らすことではない。人間の都合だけで命を扱わないという倫理観を社会に浸透させ、飼う責任と見送る責任を自覚する文化を醸成していくことに他ならない。そのためには、教育・制度・経済のすべてが連動しなければならないのである。

命の重みが、社会の未来を変えていく

花蜜幸伸氏と田中亜弓氏の挑戦は、動物愛護という枠にとどまらず、社会の仕組みを再設計しようという“未来創造”のプロジェクトである。命を守るとはどういうことか。孤独を減らすとは何か。地域と人との関係をどう再構築するか。それらを問い直す場が、いま彼らの保護活動の中にある。

「犬猫を助ける」から始まったこの挑戦は、「人を救い、地域を救い、日本を再生する」という壮大な構想へと広がりつつある。どんな社会にも変化の兆しはある。それを本気で実行しようとする人間の姿にこそ、未来を動かす力があるのだ。

彼らが描く次のステージは、動物と人間が共に尊厳を持ち、支え合いながら生きていく社会の実現。その第一歩として、私たち一人ひとりが「命の重さ」に正面から向き合う覚悟を持つべき時が来ている。

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