「裏切られた」と思わせないために──新社会人の離職を救う“りしょっパ”という処方箋
社員が去る理由は「甘え」なのか?
新卒社員が早期離職を選ぶたびに、企業の人事担当者はため息をつく。「なぜあの子はすぐ辞めてしまったのか」「我慢が足りないのでは」「最近の若者は根性がない」。そんな言葉が社内に飛び交う光景は、決して珍しくない。
しかし、令和の虎に登場した志願者・藤﨑拓美は、その価値観に真っ向から疑問を突きつけた。
「辞める若者を責めるのではなく、“辞めさせた側”に問題はなかったのかを問いたい」
彼が立ち上げたサービス「りしょっパ」は、まさにその問いへの解を示そうとするものである。企業にとっても、若者にとっても、“損失”でしかない「超早期離職」を防ぐための、まったく新しい支援ツールだ。
超早期離職は“裏切り”なのか、“防げた未来”なのか
藤﨑は自身の社会人経験をこう語る。新卒で入った会社に馴染めず、期待されながらもわずか半年で退職。周囲から「裏切った」とのレッテルを貼られ、自責の念に苛まれた。
しかし、それは本当に「裏切り」だったのか?
入社後に初めて直面する社会の壁、人間関係の不安、業務のプレッシャー…。それらは新卒者にとって時に想像を絶するものである。
それなのに、多くの企業では新卒社員に対するフォロー体制が極めて乏しい。配属初日からOJT任せ、人手不足を理由に雑務漬け、誰にも悩みを打ち明けられず、気づいたら「辞めるしかない」という選択肢しか残っていなかった──。
藤﨑はそういった状況を、「若者の未来が閉ざされる瞬間」だと考えた。
りしょっパ──“辞めたくなる前”に、気づいて動けるサービス
彼が構想した「りしょっパ」は、端的に言えば「離職予備軍」を可視化し、外部支援でリカバリーするためのシステムだ。
・新入社員に定期的なアンケートを実施
・その回答を基に“離職リスク”をスコア化
・必要に応じて、キャリアカウンセラーやコーチとの面談をマッチング
・企業にも簡易レポートをフィードバック
企業にとっては、社内では拾えない「辞めたいサイン」を早期に把握できるというメリットがある。一方で、社員にとっても、直接上司に言いづらい悩みや不満を、第三者に吐き出す場が持てる。
この“間”を埋める構造こそが、「りしょっパ」の核となっている。
虎たちの視線は甘くなかった──“社会課題”と“事業性”の間
令和の虎において、藤﨑のプレゼンは一貫して情熱的だった。
「誰かが間に入れば救える若者がいる」
「入社から3ヶ月以内の離職をなくしたい」
「企業の採用投資をムダにしない社会にしたい」
社会的意義の高さは、虎たちも認めるところだった。
だが、それだけでは金は出ない。
・どうやって収益化するのか?
・対象企業はどの規模?年商いくらの会社が導入するのか?
・競合との明確な違いは何か?
・属人化せず、スケールさせる仕組みはあるのか?
プレゼンが進むにつれ、事業計画の甘さやマーケティング戦略の未熟さが明らかになっていく。特に、どのように導入企業を増やすのか、その営業戦略については曖昧なままだった。
「熱意だけでは足りない」──ビジネスの壁と、虎の教え
印象的だったのは、ある虎の言葉。
「想いはすごく分かる。でも、これは“福祉”ではなく“ビジネス”だよ」
この言葉は、藤﨑にとって耳の痛い一撃だったはずだ。
社会課題の解決を目指す事業ほど、冷静な収支設計とロジックが求められる。そこが甘ければ、いくら崇高なビジョンがあっても、支援者の財布は開かない。
とはいえ、虎たちは彼の人柄や使命感を否定したわけではない。むしろ、「その熱量を正しく“設計図”に落とし込めたら、十分に勝負できるビジネスになる」と感じさせる空気があった。
離職“前提社会”に風穴を開けたい
「若者がすぐ辞めるのは当たり前」
「3年以内に3割が辞めるのが現実」
そんな統計が常識のように扱われている現代。だが、藤﨑はその“諦め”に立ち向かおうとしている。
今の社会に必要なのは、「辞めたくなる前に助けられる構造」だ。企業が人材を守ることで、組織も個人もより長く、深く、成長の喜びを味わえる社会になる。
そのために必要なのは、派手なプロダクトではなく、“地味で当たり前のケア”を仕組みにすること。りしょっパは、その最前線に立つ存在だ。
今後の展望──“人的資本経営”の時代にこそ輝くモデル
人的資本経営が注目される中、従業員のエンゲージメントやメンタルヘルスを指標化し、企業価値と結びつける動きが広がっている。
その文脈で言えば、りしょっパはまさに“予防医療”のような位置付けだ。退職という“症状”が出る前に、メンタル面・キャリア面の炎症を早期に発見し、適切な処置を打つ。
将来的には、社員の「離職予兆データ」を企業の人事システムと連携させる構想もあるという。匿名性を保ちつつ、離職リスクの傾向を企業レベルで可視化し、マネジメント改善につなげる。そうなれば、りしょっパは「社員を辞めさせない会社経営」の一翼を担う存在になるだろう。
社会を変える“最初の一歩”は、誰かの孤独に寄り添うこと
ビジネスとしての精度は、まだ発展途上かもしれない。だが、りしょっパのような発想が社会に広がることは、確実に意味がある。
“たった一人の若者が、辞めなくて済んだ”
その実績が積み上がるごとに、企業の意識も変わっていくはずだ。
「誰かに裏切られたと思わせない社会を作りたい」
藤﨑のこの言葉には、かつての自分を助けたかったという切実な想いが込められていた。
その一歩は、小さくとも、確かに大きな社会の歯車を動かし始めている。
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