逆ブラック対策に挑む異色の起業家、クロコ登場
「ブラック企業ではなく、“ブラック人材”の存在こそ、組織崩壊の真因である」。
そんな問題提起からスタートした志願者・クロコのプレゼンテーションは、令和の虎・第338回において一際異彩を放っていた。
近年、労働者を守る流れの中で「企業のブラック体質」ばかりが話題になる一方で、逆に企業を壊す「問題社員」の存在には光が当たりにくい。しかし、現実にはそうした“ブラックな人材”により苦しむ経営者や、職場の空気を壊される健全な社員が多数存在する。
クロコはそんな企業側の立場に立ち、「会社と従業員を“人災”から守る」新しい仕組みを提案。その真っ直ぐな想いに、虎たちも耳を傾けた。しかし、社会的なインパクトが大きい分、議論は倫理と実利の狭間で白熱する展開となる。
クロコが抱える社会問題意識――なぜ“人材”を問題視するのか?
プレゼンの冒頭、クロコは「ブラック企業に対する告発ばかりが美化され、ブラック社員の実態はほとんど語られていない」と現代社会の矛盾を突いた。実際、SNSや口コミサイトでは企業の悪評が一方的に拡散される一方で、虚偽申告や勤務態度不良、人間関係を破壊するような社員に対する情報共有や対策は未整備である。
クロコの提案は、こうした“危険人物”の傾向を見える化し、採用時点で企業が注意喚起できる仕組みを作ることだ。独自開発中の「人物トレーサビリティシステム」は、採用候補者の職歴、SNS発言、離職理由、訴訟歴などをAIで解析し、企業側に注意喚起を行う機能を搭載している。
「企業にも守られる権利がある」というメッセージに、虎たちは驚きと共に強い関心を寄せた。特に、ある虎は「今の採用市場に欠けている視点だ」と評価し、クロコの問題意識に理解を示した。
トレーサビリティ導入で採用はどう変わる?
クロコが目指すのは、採用段階での“人材リスク評価”の標準化である。
この仕組みが導入されれば、企業は履歴書だけでは見抜けない問題行動の傾向を事前に把握でき、慎重な判断が可能になる。例えば、過去に複数の企業で短期離職を繰り返していたり、ハラスメント加害の情報が匿名で複数寄せられていたりする場合、それを“リスクスコア”として可視化し、警告できる。
また、クラウドベースのデータベースにより、全国の導入企業間で匿名データの共有が可能となり、悪意ある転職の「逃げ得」を防ぐ仕組みにもなっている。
一方で、こうした個人情報の扱いに関しては懸念も強く、虎たちの質問は倫理・法的観点に集中。個人の名誉やプライバシーの侵害、誤ったデータによる不利益など、導入に慎重な姿勢を示す虎も現れた。
それに対しクロコは、「AIが自動で審査するのではなく、あくまで“補助的な意思決定ツール”であり、最終判断は企業が下す」と説明。また、データは本人の同意を得たうえで処理する設計であり、法的アドバイザーと連携してシステム開発を行っていると補足した。
情熱とビジネスモデルの融合――収益構造と成長戦略
クロコの提案が単なる“正義感”ではなく、明確なビジネスとしての計画を伴っている点も、虎たちの注目を集めた。
収益モデルは主に以下の3本柱で構成されている:
SaaS型月額課金モデル(BtoB)
企業がシステムを利用するごとに月額料金を支払う。社員数に応じた従量課金制を導入。
情報提供プラットフォームとしてのマーケティング活用
人事・労務系企業との連携による広告モデル、HR関連のデータ連携ビジネスを展開予定。
データ分析サービスの外販
採用傾向やリスク人材の統計を業界別に提供し、他社の採用効率をサポートするBtoBtoB戦略。
さらにクロコは、今後の拡張として「問題社員が起こす経済損失の可視化レポート」や「企業のリスク診断機能」なども視野に入れている。つまり、採用現場だけでなく、経営者層や投資家向けのサービスとしても事業の広がりを想定しているのである。
虎たちからは「ビジネスモデルとしても面白い」「社会的な意味もある」と前向きなコメントが飛び交い始めたが、同時に「運用時のリスクと世論との衝突が大きな壁になる」との声も残った。
企業を守る、新しい“採用インフラ”への第一歩
【前編】では、志願者・クロコが提示したのは、従来の採用概念を根底から揺さぶる新視点だった。
“働く人”を一方的な被害者とする風潮の裏で、実際に企業や職場を蝕んでいる「ブラックな人材」への対応はタブー視されてきた。
クロコの挑戦は、その不均衡を是正し、健全な組織と真面目に働く社員を守るための仕組みづくりにある。AIと情報分析を駆使して“人災”を未然に防ぐというビジョンは、リスク社会における一つの答えかもしれない。
とはいえ、この領域は倫理的な境界線と隣り合わせだ。虎たちの目線も、単に利益を追うだけではなく、「それは社会に必要なのか」「本当に人を守れるのか」という視点に移りつつある。
後編では、この事業がどこまで“実装可能な正義”となり得るのか、虎たちが最終的な評価を下す瞬間が訪れる。クロコの情熱とビジョンは、果たして虎たちの心を動かすことができるのか――。
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