「時代錯誤」?それが逆に武器になる
SNSもYouTube広告も、クリックひとつで数字が追える時代。そんな中、令和の虎に現れた志願者・清水研一が持ち込んだのは、まさかの「紙のDM(ダイレクトメール)」だった。
今さら紙?古臭い?誰もがそう思ったに違いない。だが、彼は真っすぐに語った。
“開封率が、違うんです。”
スマホに通知がバンバン届く時代だからこそ、ポストに届く「手触りのある情報」が逆に目立つ。しかも、開けたくなる仕掛けを盛り込んだDMは、ただの紙切れじゃなく“体験”になる。
彼が狙っているのは、手に取った瞬間に感じる“これは自分に届いたものだ”という特別感。その小さな感情の動きが、購買や問い合わせに繋がると信じていた。
仕組みはシンプル。でも熱は本物
清水のビジネスモデルは、BtoB向けに「開封率の高いDM」を制作・提供するもの。ターゲットは主に中小企業。Web広告の限界を感じている経営者に「紙」の選択肢を提案したいという。
DMには、パーソナライズやストーリーテリングを取り入れ、封筒の形状や質感にも徹底的にこだわる。開けた瞬間に“普通じゃない”と感じさせることが、最大の目的。
特に、飲食や美容、士業など、地元密着型の業種には刺さると見ている。チラシは見ない。でも、自分に向けられた手紙なら目を通す。それが彼の仮説だった。
ところが、虎たちは冷静だった
アイデアのユニークさには一定の評価があった。だが、虎たちの表情は次第に曇っていく。
「収益構造が弱い」「競合との差別化が見えない」「戦略の詰めが甘い」──。出てくるのはビジネス視点での鋭い指摘ばかり。
そして、ある虎からはこんな一言が飛ぶ。
「あなたの姿勢は、幼稚だね」
この言葉には、清水も言葉を詰まらせた。だが、これは単なる批判ではない。熱意は買う。だが、ビジネスは感情では動かない。数字、構造、再現性──それらがそろって初めて、熱意が“投資価値”に変わる。
熱意と現実。そのギャップが浮き彫りに
DMの開封率が高い。それは素晴らしい。でも、その先に「何が起きるのか」が曖昧だった。
例えば、「開けてもらったあと、どういう行動を促すのか?」
「CV(コンバージョン)に繋がる導線はあるのか?」
「そのDMを100件送って、いくら利益が出るのか?」
こういった問いに、明確に答えきれなかった。これは、清水の弱点だった。
志は熱い。でも、ビジネスの世界は熱量だけじゃ動かない。数字で語れるかどうか、論理で説得できるかどうか。それが問われるのが、この「令和の虎」という舞台。
それでも感じた“可能性の芽”
それでも、一部の虎は清水のアイデアに可能性を見ていた。
特に、マーケティングの世界で「脱・デジタル疲れ」はキーワードになりつつある。紙DMは、うまくいけば“個の時代”にマッチする武器になり得る。誰もがスマホを見ているからこそ、紙が“異質”として目に留まる。その“逆張りの戦略”が、企業の販促に効いてくる可能性もある。
課題は山ほどある。でも、磨けば光る。そんな原石のようなアイデアが、そこには確かにあった。
“心に届くDM”を本気で広げたい
清水の思いはシンプルだ。紙DMを通じて、企業と消費者の距離をもっと近づけたい。
誰かの心に届くものを作りたい。ただそれだけの想いで、彼はこのビジネスを立ち上げた。チラシではない、広告でもない。「感情を動かす手紙」を届けたい。それが、清水が描く理想のDMだ。
志とビジネス。その交差点に立つ
この回の令和の虎は、志と現実のギャップ、そして起業の難しさを浮き彫りにした。
熱意があっても、数字が語れなければ信頼されない。想いがあっても、利益が生まれなければ事業は続かない。
清水研一は、きっとこの経験を糧にするだろう。そして、もう一度“紙で戦う理由”を、ロジックと成果で証明しに来るはずだ。
紙か、デジタルかじゃない。「伝わるかどうか」だ
時代に逆行するように見えて、実は時代にマッチしている。そんなビジネスが今、確かに生まれ始めている。
紙DMは、もう古くない。使い方次第で、誰かの心を一瞬で動かすことができる。
情報があふれる時代だからこそ、本当に届くものは、限られている。
そして今、その“限られた一通”を作り出そうとする男がいる。
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