事業再生版令和の虎|「それじゃ絶対に金は出さないね」と言われた男の逆襲──ティンバーパネルで挑む地域再生

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ティンバーパネルとは何か?木材による護岸の新提案

ティンバーパネルとは、国産木材を使用したパネル型構造材であり、主に河川の護岸整備や災害復旧に利用されることを目的として開発された工法である。従来のコンクリートブロックや鋼製杭といった無機質な素材に比べ、ティンバーパネルは再生可能な木材を利用する点において、環境負荷の軽減という強いアドバンテージを持つ。

構造的には、加工済みの木材パネルを組み合わせ、現場で杭打ちや固定を行う方式である。現場での施工性に優れ、重機が入りにくいエリアや災害直後のインフラ損傷地でも使用できる点が強みである。また、自然との調和も評価されており、都市部の景観形成や、エコタウン推進地域などでも注目され始めている。

この技術は、林業・建設業・防災行政と密接に関わる次世代型インフラ技術であり、日本の地域課題と資源循環の両方に応える可能性を秘めている。

コンクリート護岸の限界と日本の災害事情

日本は地震、台風、大雨といった自然災害が多発する国であり、河川護岸の強化と維持はインフラ政策の柱とされてきた。だが、その中心にあるコンクリート構造物には明確な限界がある。

第一に、経年劣化である。多くのコンクリート護岸は高度経済成長期に施工されたものであり、50年以上が経過している。ひび割れや剥離が進行しており、維持管理費が年々増加しているのが現実だ。

第二に、環境への負荷である。コンクリートの製造はCO₂排出量が多く、気候変動対策の観点からも持続可能な素材とは言い難い。また、都市型水害への対応力としても柔軟性に欠け、災害時には破断や崩落を招くこともある。

これらの課題に対して、「木で河川を護る」という逆転の発想は、既存の常識を覆す挑戦である。

木で災害を防げるのか?技術と構造の核心

「木で災害を防げるのか?」という疑念は自然な反応である。だが、ティンバーパネルの構造はその懸念を覆すだけの論理的裏付けを備えている。

まず注目すべきは、木材が水を吸って強度が落ちるという一般的な認識に対し、防腐処理および樹種選定により長期耐久性が確保されている点である。国産スギやヒノキを使用し、適切な乾燥・加工を行ったパネルは、想定耐用年数を超えて安定性を保つというデータもある。

加えて、パネルの内部構造には鋼製の芯材やジョイントを用いることで、地盤変位にも対応できる柔構造となっている。この点で、硬直したコンクリートと異なり、地震や浸食への追従性が高い。

つまり、「木だから弱い」という単純な構図ではない。環境と強度のバランスをとった現代的な構造技術であることが、ティンバーパネルの本質だ。

諌山洋之の事業構想:再生をかけた挑戦の全貌

この革新的技術を社会実装しようと挑んだのが、建設業出身の起業家・諌山洋之である。彼は、林業と建設の双方にまたがる知見を持ち、自ら製造から施工までを内製化したモデルを提案している。

彼の事業構想は、単なる製品開発ではない。自治体との連携による災害対策モデルの構築、間伐材の継続的な活用スキーム、そして雇用創出を伴う地域循環型経済の構築まで視野に入れている。

諌山は「ティンバーパネルは、防災と地域再生の両方を動かす」と語る。その一言には、彼の信念と覚悟が凝縮されている。

林業、建設、防災…3分野にまたがる社会的意義

この事業がユニークなのは、「ティンバーパネル」という製品一つが複数の社会課題に貢献しうる点にある。

まず、林業。間伐材の用途不足は全国の山間部で深刻であり、森林資源が手入れされず荒廃する原因にもなっている。ティンバーパネルの需要が増えれば、林業の再活性化が見込まれる。

次に、建設業。災害対応に即応できる軽量な護岸資材は現場作業を大きく効率化する。特に、地方の土木業者にとっては新たな収益源となりうる。

そして防災。気候変動に伴う「想定外」の災害が頻発する中、柔軟性と環境適合性を両立する護岸材は新たな選択肢となる。

このように、1つの製品が3つの産業を巻き込む事業は珍しく、その社会的価値は極めて高い。

課題は「信頼」と「行政」。壁をどう超えるか

諌山の事業に立ちはだかる最大の壁は、「信頼」である。特に防災インフラにおいて、新技術の導入には厳格な審査と実績が求められる。

また、行政との連携も一筋縄ではいかない。補助金制度の対象外、施工マニュアルの不在、自治体ごとの認可基準など、制度的な壁も数多く存在する。

これらに対して諌山は、実証フィールドの確保や協力企業との連携強化を進めている。すでに一部の河川では試験的な施工が始まっており、実績を積み上げることで制度的障壁の突破を狙っている。

信頼は一朝一夕で得られるものではない。だが、彼の事業は一歩ずつ、確実に壁を崩しつつある。

出資ゼロの結末と、それでも挑戦が終わらない理由

「それじゃ絶対に金は出さないね」――。諌山洋之が出演した『令和の虎』の中で、ある虎が放った一言である。

彼の提案は、革新性はあったが、プレゼンテーションや財務計画に説得力を欠いていたと一部の虎は判断した。その結果、出資はゼロ。「ノーマネーでフィニッシュ」という結果に終わった。

だが、この挫折は彼にとって終わりではなかった。番組出演を機に、彼の事業には新たな注目が集まり、SNSや地域団体からの問い合わせが増加したのである。

挑戦は、形を変えて続いている。彼の理念に共鳴する人々が少しずつ集まり始めている。

今後の展望:木材による護岸は未来を変えるか?

今後、ティンバーパネルが全国で採用されるようになれば、護岸のあり方そのものが変わる可能性がある。

それは単に「素材を変える」という話ではない。インフラを通じて、地域の林業を守り、災害対応を柔軟にし、地球環境への負荷を下げるという「未来への設計」である。

今の日本には、既存の枠組みに挑む起業家が必要である。諌山洋之の挑戦は、その象徴のひとつだ。

木で河川を護るという逆説的な発想が、10年後の常識になっている可能性は決して低くない。

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