TikTokで一躍注目を集めたハンドメイド作家・むぎママDIYが、人気ビジネスリアリティ番組「令和の虎」に出演し、虎たちを前に独自の推し活グッズとイベント事業について熱弁を振るった。
そのタイトルにもあった「こんなの誰が買う?」という言葉は、決して自虐ではなく、ユーモアとしたたかさを内包した逆転発想である。本記事では、むぎママDIYが打ち出したビジネスモデルの独自性、動画から見える市場分析、さらに今後の可能性について深掘りしていく。
1. SNS×ハンドメイドが生んだ「推し活グッズ」市場の新潮流
むぎママDIYのビジネスは、ただのハンドメイド作品の販売ではない。彼女が着目したのは、「推し活」と呼ばれる現代型のファン活動である。推し活とは、自分が推しているアイドル、キャラクター、VTuber、アニメ作品などに対して応援や愛情を表現する行為を指す。これに伴い、個性的なグッズやカスタムアイテムへの需要が年々高まっている。
むぎママDIYは、この市場の機運を察知し、「世界に一つだけの推し活グッズ」をコンセプトに掲げたハンドメイド作品を展開。例えば、推しの名前入りキーホルダー、ライブ参戦用の応援うちわ、限定仕様のミニポーチなど、既製品では満たせない“オリジナル感”を売りにしている。
彼女が注目された最大の理由は、これらの作品を単に制作・販売するのではなく、制作過程をTikTokで公開し、SNS経由で集客・販売へと巧みに誘導している点である。約60万人以上のフォロワーを抱えるアカウントでは、作品紹介だけでなく、制作テクニックや販売ノウハウも惜しみなく共有されており、同じように活動したい作家たちにとっての“先生”的存在にもなっている。
さらに、彼女はこのSNS活用を自分一人の成功にとどめず、「むぎママサロン」というオンラインサロンを立ち上げ、他のハンドメイド作家の育成にも着手した。このサロンでは、月額制でSNS活用法、売れる作品作り、動画の撮り方、マーケティング方法などを学ぶことができ、すでに約150名以上の会員を獲得している。
2. オンラインからリアルへ──イベント開催で信頼と売上を拡大
むぎママDIYが「令和の虎」でプレゼンしたのは、ハンドメイド作家と企業をマッチングするリアルイベントの開催である。このイベントは、全国の商業施設を会場として、作家が自らの商品を直接販売できる機会を設けると同時に、企業がハンドメイド市場の実態を体感し、新たなパートナーシップを築くことを目的としている。
むぎママDIYはこのイベントの開催資金として170万円の融資を希望した。資金の大半は会場使用料や備品購入、スタッフ人件費などに充てられる予定だ。プレゼンの中では、イベントで配布するノベルティとして、自身が制作した可愛らしいキーホルダーなどを披露し、商品の品質や個性を虎たちに直接アピールした。
このリアルイベントを通じて目指すのは、オンラインでの活動では伝えきれなかった信頼感とブランド価値を高めることだ。SNS時代では、情報はすぐに拡散する一方で、「怪しい」「本当に売れてるの?」といった不信感もつきまとう。むぎママDIYはその点を真摯に受け止め、あえて現場で顧客と顔を合わせるリアルな接点を求めたのである。
また、このイベントをフックに、むぎママサロンへの新規会員獲得も狙っている。実際にむぎママDIYと話し、商品に触れ、彼女の指導を受けたいと感じた来場者が、イベント後にオンラインサロンに入会する可能性は高い。いわば、リアルイベントはサロンビジネスの強力な導線として機能する。
3. ハンドメイド×教育ビジネスの融合で狙う中長期戦略
むぎママDIYのビジネスは、ハンドメイド販売にとどまらず、教育・育成の分野にも踏み込んでいる点が特徴的である。前述のオンラインサロンでは、月額5,500円の中級者向けプランや、月額55,000円の個別コンサルティング付き上級プランも用意されている。これらはSNS戦略からブランディング、物販まで、実践的な内容が詰め込まれており、着実に実績を上げている参加者も出てきているという。
この仕組みの素晴らしさは、単なる“教える側・教わる側”の関係を超え、むぎママブランドの拡大につながっている点にある。参加者の多くは、自身のSNSでも「むぎママサロンに入ってよかった」「売上が2倍になった」などと発信しており、それがまた新たな参加者を呼び込む好循環を生んでいる。
さらに彼女は、企業とのコラボレーションにも可能性を見出している。特に地方の中小企業やショッピングモールなど、ハンドメイドとの親和性が高い場所においては、むぎママDIYのネットワークが非常に有効に機能する。企業は、新たな販促や集客の切り口として彼女のノウハウを求めており、今後は「ハンドメイド×企業」のコンサルティング案件も増えると予測される。
将来的には、自らが主宰するリアルイベントを定期開催し、その参加費やスポンサー収入、サロン入会によるサブスクリプション収入、物販収益、企業案件によるフィーなど、多角的な収益モデルを築くことができる。これは、物を作るだけでは生活が成り立たないと悩む多くのクリエイターにとって、大きなロールモデルとなるはずだ。
個人×SNS×リアルの融合型ビジネスの未来
むぎママDIYの令和の虎出演は、単なるエンタメの枠を超えた重要な示唆を含んでいた。それは、「個人の情熱とSNSの力があれば、ハンドメイドという伝統的な分野でも革新的なビジネスが成立する」という事実である。
推し活という時代の空気を的確にとらえ、SNSを武器に発信を重ね、リアルイベントで信頼と関係性を築き、さらに教育ビジネスへと拡張していく。その流れは、誰でも始められるが、誰も簡単には成し遂げられない複雑で精緻な戦略に裏打ちされている。
「こんなの誰が買う?」と笑われたグッズこそ、実は今の時代に最も求められている“共感消費”の象徴なのである。むぎママDIYのこれからの活躍は、ハンドメイド作家や副業を考える全ての人にとって、大きなヒントと勇気を与えるに違いない。
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